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「連れ去り」よりも恐れるべきこと

2023.03.18更新

「連れ去り」という言葉があります。

配偶者が突然、子を連れて別居する行為を指します。

別居と同時に代理人から受任通知が届き、配偶者と連絡が取れなくなる。

子の親権を失う前提での離婚協議を余儀なくされる。
そういった一連の流れを含め「連れ去り」という言葉が使われることもあります。

少し前まで、いわゆる「連れ去り」にあった方からの相談は非常に多かったです。
しかし、最近になってやや減っている印象があります。
件数が減っているだけでなく、連れ去りの態様もあまり乱暴ではなくなってきているようにも感じます。
弁護士からの受任通知の文言も、以前よりソフトになってきてもいるようです。

その代わり、最近増えている印象があるのが「追い出し」です。
配偶者から、自宅から出て行くよう求められる件が増えているように感じるのです。

「追い出し」は「連れ去り」よりもさらに深刻です。
家庭を失うだけでなく、自宅まで事実上失うことになりかねないからです。

「追い出し」は、子の意思を盾に行われることもあります。
子もあなたに出て行ってほしいと言っている。
子のためにも、出て行ってくれ。
そう言われると、子を大切に思う人ほど抵抗は難しいでしょう。
場合によっては、子の口から直接「出て行ってほしい」と言わせる人もいます。

子を離婚紛争に巻き込まないためにも、自分が身を引いたほうがいいのではないか。
そう考えるのは、思うツボです。

「追い出し」でさらに深刻なのは、追い出された当人がしばしば「自分の意思で出て行った」と思っていることです。
家を出る経緯をよく聞くと、追い出されたとしか思えない。
相手には、明らかに配偶者を追い出す意図があった。
それでも、最後は自分から家を出た以上、自分は追い出されたのではない。
「追い出された」自覚がないと、対応に後手を踏むことになりかねません。

さらに悪いのが、裁判所含め第三者も、「追い出し」被害者を「自分で家を出た人」と判断するケースが多いことです。
実態をきちんと見極める必要があります。

最も恐れるべきは「連れ去り」よりも「追い出し」です。
家を出てしまう前に、まずご相談いただければと思います。

退職金は財産分与に含まれるか

2023.03.01更新

仮に離婚した場合、財産分与はいくらくらいになるか。試算する上で見落としたがちなのが、退職金です。

退職金相当額を財産分与の対象に含まれるか、かつては議論がありました。
退職金を受け取り済みの場合は、財産分与の対象に含まれる。
では、退職前の場合はどうなるのか。
定年退職までまだ10年以上ある場合はどうか。
公務員と会社員では異なるのか。
同じ会社員でも、安定した大会社とベンチャーでは異なるのか。
論点は色々ありました。
現在では、「婚姻破綻時に仮に退職した場合、退職金はいくらになるか」でほぼ決まっています。
予想される退職までの期間や、勤務先の事情はよほどのことがない限り考慮されません。

この影響は甚大です。
会社勤めの場合、財産と言っても限られています。
財産の大部分を占めるのは不動産ですが、残ローンを差し引けば価値は無いか、大した金額にならないことが多いでしょう。
ローンの支払いに追われていれば、貯金も大した金額にはなりません。
だから、そもそも財産分与の対象になる財産はないと思っていたら、実は退職金があった。
退職金を計算してみたら、実は1000万円を優に超える金額だった。
財産分与としてその2分の1を払えと言われても、そんな手持ちはない。
そういった事態も起こり得ます。

退職金は、給与の後払いである。
婚姻期間中にも、その期間に相当する退職金相当額が潜在的財産として蓄積されている。
婚姻期間中に形成された財産だから、財産分与の対象となる。
裁判所の理屈はおおよそ上記のとおりです。

しかし、この理屈には疑問があります。
退職金は給与の後払いである。
それはそうだとしましょう。
しかし、後払いには後払いにする理由があるはずです。
社員に長く在籍してもらいたい場合、長く在籍することへのインセンティブを付与する。
逆に、あまり長く在籍してほしくない場合には、早期退職に多めの退職金を支払う制度もあり得ます。
「不祥事による解雇の場合には退職金を支給しない」とすることで、不祥事を防止するという狙いもあるでしょう。
後払いには、後払いにするだけの理由があるのです。

その理由を考慮せず、給与の後払いであるという点だけに着目し、分与対象財産に含める。
これは少々乱暴すぎます。
配偶者の退職金受給以前に離婚するという選択をしたのに、退職金相当額は受け取ることができる。
これでは、会社が給与の一定部分を後払いにした趣旨が損なわれてしまいます。

裁判所が重視しているのは、恐らく理屈ではありません。
少しでも財産分与の金額を大きくし、離婚による経済的ダメージを軽減する。
その目的が先にあり、理屈はその後に付いてきたという印象を強く受けます。

しかし、財産分与の金額を大きくすることは受け取る側にとっては利益ですが、支払う側にはダメージです。
理屈にならない理屈で、一方当事者に偏った負担を押し付けることが、正当だとは思いません。

 

「今後の窓口は当職となります。」

2023.02.22更新

配偶者に代理人弁護士が就任し、受任通知書が届いたとします。

受任通知書には、ほぼ100%の確率で、タイトルのような文言が入っています。

今後、離婚に関する件は弁護士に連絡せよ、本人に直接連絡するな、という意味です。

 

協議を進めるためには窓口は統一されていたほうが良い。

それは間違いありません。

本人にも弁護士にも連絡してしまったら、混乱してしまいます。

双方のためにも窓口は1つにすべきです。

 

ただし、この「窓口指定」には法的な強制力はありません。

従うかどうかはあくまで任意です。

 

また、弁護士は何でもかんでも代理するわけではありません。

あくまで委任の範囲、一般的には離婚に関する件のみです。

離婚に直接関係しない事柄については、そもそも対象に含まれません。

 

代理人の介入後は、当事者同士のやり取りは原則禁止というのは誤解です。

同居継続中の場合。

小さいお子さんがいらっしゃる場合。

どうしても当事者同士で連絡を取り合う必要がある場面はあります。

そのような場合まで、代理人を通していたらキリがありません。

 

何でもかんでもコミュニケーションを代理人が巻き取ってしまうのは、業界の悪弊だと思います。

特にお子さんがいる場合、離婚後も子の父母としての関係は続きます。

離婚協議中だからといって、何でもかんでも代理人を通すのは、当事者の利益にもなりません。

家を出てはいけない

2023.02.14更新

だいぶ前から夫婦の間で離婚の話は出ている。

離婚の話になると揉めてしまい、家庭の雰囲気は良くない。

未成年の子にもストレスを与えている。

配偶者からは、離婚より前に家を出るよう暗に求められている。

子に悪影響があってはいけないし、自分もこのまま同居を続けるのはストレスだ。

離婚協議をスムーズに進めるためにも、自分1人が家を出たほうが良いとも思う。

家を出て大丈夫か。

 

上記のような相談を受けることがあります。

答えは1つ、「家を出ないでください」です。

家の所有者だったり賃借人だったりする場合は「絶対に」です。

 

理由は、家を明渡してしまったらまず家には戻れないからです。

家を失った状態が離婚協議の出発点になります。

 

自分が家にいなくても、住宅ローンや家賃は当然発生し続けます。

別居すると婚姻費用も請求されることが多いです。

さらに、自分の住む所も確保しなければならず、新たに家賃も発生します。

この三重の経済的負担は非常に厳しいです。

 

負担の重さに耐えかね、早期に離婚を成立させて負担を免れようとしても、そう上手くはいきません。

相手にしてみれば、自分の住環境は変わらず、不仲な配偶者だけ目の前からいなくなった状況です。

言葉は悪いですが、「追い出し」に成功したわけです。

相手に住居費を負担させつつ、じっくり検討すれば良い。

もはや離婚を急ぐ理由がありません。

 

では、せめて相手も家から出てもらい、家自体を処分してしまおうとしても、これも上手くいきません。

家の所有者が誰であれ、現に住んでいる人を追い出すのは非常に困難です。

家に関する経済的負担だけが延々と続くことになります。

 

離婚成立まで思い経済的負担を負った側と、住居費すら負担しないで良い相手方。

そこまでパワーバランスの崩れた二者間で、対等な協議など期待できません。

離婚協議でも、不利な条件を呑まざるを得なくなる恐れもあります。

 

家は城です。

自ら城を明け渡しては、戦には勝てません。

シンプルに言えばそういうことです。

 

もちろん、同居を続けることにはストレスが伴います。

子に負担をかけてもいるでしょう。

それでも、自分から家を出てしまうことのリスクとは比較はできません。

やはり、家を出てはいけません。

 

 

「共有財産」は共有ではない

2023.02.08更新

民法第762条
①夫婦の一方が婚姻前から有する財産及び婚姻中自己の名で得た財産は、その特有財産(夫婦の一方が単独で有する財産をいう。)とする。
②夫婦のいずれに属するか明らかでない財産は、その共有に属するものと推定する。

 

離婚する際、どちらかが請求すれば、原則、婚姻期間に形成された財産は双方に分与されます。

いわゆる財産分与です。

一般的には夫婦の「共有財産」を2分の1にすることになります。

 

財産分与の対象となる財産が「共有財産」と呼ばれることがあります。

しかし、この言葉は誤解を生みやすく、問題が大きいです。

理由は単純で、共有でもなんでもないからです。

 

自宅内の家電や家具などは確かに2人の共有物ということで良いでしょう。

しかし、たとえば預金残高は文句なく口座名義人に属します。

夫婦だからといって、共有などではありません。

不動産もそうです。

自宅の所有者は、登記されている所有者です。

それ以上でも以下でもありません。

離婚の場面で「共有財産」と呼ばれる財産は、ほぼ共有ではないのです。

 

では、なぜ「共有財産」と呼ばれるのか。

恐らく、「もともと夫婦2人で共有していた」からこそ2分の1ずつ分与される、ということだと思われます。

しかし、この理屈はおかしい。

財産分与というのは、分与する時点で新たに財産の所有権を移動させることです。

分与する前は、やはりどちらかの単独所有なのです。

2分の1ずつに分与するという結論から遡及して、分与以前から「共有財産」だったとするのは論理が逆転しています。

 

単に論理が逆転しているというだけではありません。

「共有財産」という言葉は、当事者に誤った先入観を与えていることがあります。

実際には共有ではないのに、共有物であるとの認識に立った主張がされることがあるのです。

 

代表例は以下のようなパターンです。

自宅はXの単独所有で、配偶者Yは自宅を出ていき別居に至った。

自宅に残ったXが、自宅を売却することにした。

この場面で、Yが「共有財産を勝手に売却するな」と言ってくる。

でも、これはおかしいです。

自宅はXの所有物なのですから、処分するかどうかはXが決めることです。

「共有財産」という言葉が、自分が権利者であるかのような誤解を生んでいるのです。

 

自宅の買い手である第三者の立場から見れば、問題はより分かりやすいです。

登記上の単独所有者が、不動産を売りに出していたので買った。

その後で、登記に載っていない売り手の配偶者から「共有財産だから勝手に買うな」と言われたらたまったものではありません。

 

結局、「共有財産」という言葉が間違っている、ということに尽きます。

「共有財産」とは、冒頭に挙げた民法762条によれば、「夫婦のいずれに属するか明らかでない財産」のことです。

上で例に挙げた家電や家具類のことです。

不動産や預金などは「共有財産」ではありません。

 

財産分与の対象となる財産、という意味で「分与対象財産」という言葉も使われます。

こちらなら誤解の余地はありません。

離婚と共に財産分与が実施されてはじめて、所有権が移転する。

それまでは夫婦いずれかの単独所有である。

それに尽き、「共有財産」などという紛らわしい言葉を使う必要はどこにもありません。

 

分与対象財産のことを共有財産と呼ぶのは止めるべきです。

単純に間違っています。

受任通知書に「離婚」の文字が入っていない場合

2023.02.06更新

配偶者が出て行き、ほどなく弁護士から受任通知書が届いたとします。

配偶者の代理人に就任したこと。

以後は自分が窓口になること。

配偶者はこれこれこういう理由で別居を決めたこと。

婚姻費用の支払いを請求すること。

おおよそ上記のような内容が書いてあります。

 

一通り最後まで読んでから、あることに気付きます。

「”離婚”の文字がどこにも入ってない」

別居して弁護士までつけるのだから、離婚前提の話だと普通は思います。

ところが、どこにも「離婚」という文字がない。

時々こういう受任通知書を見かけます。

 

理由はシンプルです。

弁護士が、「婚姻費用分担請求」しか受任していないのです。

家庭裁判所では、「離婚調停」と「婚姻費用分担調停」は別の手続きです。

そのうち、後者から受任していない。

だから、受任通知書に離婚の文字が入っていないのです。

 

別の法的請求、別に手続きなのだから、婚姻費用分担請求だけを受任することは特に問題ない。

そういう考え方もあるだろうと思います。

しかし、そもそも夫婦には同居義務があります。

自ら同居義務を放棄して別居するのですから、夫婦関係を継続する意思は通常ないはずです。

夫婦関係を継続する意思がないということは、離婚意思があるということです。

夫婦関係を継続する意思はないが、離婚意思もないという状態は通常予定されていません。

なのに、離婚については受任せず、婚姻費用分担請求だけを受任する。

婚姻費用について調停・審判で決まったら、そこで代理業務は終わり。

これが筋の通った考え方だとは思えません。

 

問題が顕在化するのは、婚姻費用分担請求を受けた側が、離婚を請求する場合です。

婚姻費用を請求してきた代理人が、「自分は離婚は受任していない」と言う。

窓口もないため、協議がなかなか進まない。

こういう事態に陥ってしまうことがあります。

 

根本には、別居に至る経緯を考慮することなく、一律に婚姻費用分担義務を課し、さらに強力な執行力まで付与する制度の問題です。

そのような制度のおかげで、婚姻費用の確保は決して難しくありません。

時間もそれほどかかりません。

その一方で、離婚は時間と手間がかかる割に、金銭的な見返りが必ずある訳でもでありません。

そこに、婚姻費用分担請求だけを受任するインセンティブが生まれます。

 

でも、それでいいのでしょうか。

少し違う話をします。

今は下火になりましたが、過払い金請求という類型があります。

詳細は省きますが、過払い金請求は手間も時間もかからず回収可能性も高い。

弁護士にとって非常に儲かる分野でした。

しかし、過払い金はそもそも借金問題の一部です。

高利の消費者金融から借りたため、払い過ぎた金を取り戻すのが「過払い金」です。

過払い金がある依頼者は、同時に借金問題も抱えていることが一般的です。

ところが、借金問題の解決、債務整理には手間も時間もかかります。

その割に、過払い金ほどの実入りもない。

そこで、債務整理のうち過払い金請求だけ受任する弁護士が出るようになりました。

こういった行為は業界内で「ツマミ食い」と呼ばれ、問題視されました。

 

離婚問題のうち、婚姻費用分担請求だけ受任する行為は、「ツマミ食い」によく似ています。

 

「本書面到達から1週間以内に連絡をください」

2023.02.05更新

ある日、配偶者の代理人を名乗る弁護士から「受任通知書」なる書面が内容証明郵便で届く。

書面には、配偶者は離婚を希望しており、今後の窓口は代理人が務めると書いてある。

場合によっては、婚姻費用を請求する旨の記載もある。

これが、弁護士を介しての離婚協議が始まる代表的なパターンです。

 

その書面の末尾のあたりには、決まって表題のようなことが書いてあります。

「ご連絡いただけない場合には、やむを得ず法的措置を取ります。」

というようなことが書いてある場合もあります。

私自身、何度も書きました。

 

この「1週間」という期間の根拠はなんでしょうか。

実は、「何となく」です。

特に根拠はありません。

 

1週間という期間を守らなかったことによる不利益は何でしょうか。

実は明確にこれというものはありません。

家庭裁判所は調停前置と言って、まず調停を経る必要があります。

調停はあくまで話し合いです。

当事者間で話し合うのと何ら変わりません。

 

調停で話がまとまらなければ場合によって訴訟になります。

しかし、訴訟になったからといって必ずしも不利益ではありません。

財産分与は2分の1,養育費は算定表どおり。

お金に関するルールは訴訟になっても変わりません。

 

当事者間で話し合っても、調停になっても、訴訟になっても特に有利でも不利でもありません。

1週間という期限を守らないことによる不利益は、少なくとも法的にはありません。

 

もちろん、受け取った受任通知書を無視しても良いと言っているわけではありません。

きちんと対応することが、離婚自体の解決のために重要なのは当然です。

ただ、1週間という期間の短さに焦り、判断を誤ることは避けるべきです。

離婚紛争に子を巻き込んでいるのは誰か

2022.10.02更新

子のいる夫婦の離婚調停に行くと、家庭裁判所で一本のビデオを見せられます。

「離婚をめぐる争いから子どもを守るために」と題された5分ほどの映像です。

Youtubeなどでも公開されていますので、誰でも見ることができます。

 

子どもの前で離婚について言い争いするのは止めよう。

子どもに対し「お母さんとお父さん、どっちと暮らしたい?」などと選択を迫るようなことはしてはいけない。

おおよそ、このような内容をまとめたビデオです。

 

私は、このビデオを待合室等で見るたびに複雑な思いになります。

ビデオの主張自体が間違っているとは思いません。

ただでさえ、親の離婚は子の心を傷つけます。

子に選択を迫り、責任を押し付けるのは大人として言語道断です。

離婚紛争に子どもを可能な限り巻き込まないことは、大人の義務です。

ビデオの主張自体には賛成します。

 

一方で、「離婚紛争に子を巻き込まない」というルールは、実際の紛争では守られていないケースが非常に多いです。

離婚についての話し合いに子どもが同席させられる。

一方の親がいない場で、その親に関する悪い情報が吹き込まれる。

「子どもが嫌だと言っているから」という理由で家から追い出される。

そういったケースが目につきます。

 

上記ビデオ自体、親に対し「そういった行動は良くない」と啓蒙する目的でつくられたものでしょう。

しかし、このビデオに効果があるかと言えば、私は大いに疑問です。

なぜなら、実際には上記のような親の行動の原因は「知識不足」「啓蒙が足りていないから」ではないことが多いからです。

「離婚紛争に子を巻き込んではいけない」ということを知らないからそういう行動を取る、というわけではないケースが多いのです。

悪いことだと知った上で、敢えてそのような行動を取っているのです。

 

それは何故か。

答えはシンプルです。

「その方が離婚紛争で有利だから」です。

離婚紛争に子どもを巻き込み、自分の側につけたほうが有利に働くことを知っているから、巻き込むのです。

「知っててやってる」のです。

 

なぜ、子どもを自分の側につけると有利なのか。

理由は1つではありませんが、私は最大の理由は「子どもの権利主体性が尊重されていないから」だと考えています。

子どもは親の離婚の利害関係者です。

自力で生きるのが難しく親に頼るしかないという意味で、最大の利害関係者と言ってもよい。

それにも関わらず、現行の離婚制度では、子どもを権利主体として扱っていません。

子ども独自の利害について主張するどころか、意見を表明する機会すらろくに与えられていません。

家事事件手続法65条に、子の意思を考慮する努力義務が定められていますが、まったくもって不充分です。

主体的に意見を表明する機会すら、実質的に与えられていないのです。

 

その結果どうなるか。

子ども自身が意見を表明できないのを良いことに、当事者双方が勝手に子の意見を代弁し始めるのです。

「子どもはこちらと住みたいと言っている」

「子どもは相手に会いたくないと言っている」

「子どもは今の家を出て行きたくないと言っているので、相手に出ていってほしい」

などなど。

子どもという神様のご託宣を勝手に代弁する巫女のようです。

 

子どもの代弁者という最強の地位を手に入れるための有効な戦法は何か。

子どもを離婚紛争に巻き込み、自分の側につけ、相手と対立するように仕向けることです。

子どもを離婚紛争に巻き込む親は上記の原理に基づき行動しています。

裁判所のビデオでの啓蒙程度でどうなる話ではないのです。

 

結局、子どもを権利主体として扱わずろくに意見表明もさせず、そのくせ親が代弁する子の意思は過大に評価するという、裁判所の運用が諸悪の根源です。

裁判所の運用自体が、親に「子どもを離婚紛争に巻き込む」動機を作り出しているのです。

自ら動機を作り出しておきながら、ビデオ程度でお茶を濁す。

裁判所の対応は欺瞞そのものです。

 

その欺瞞の最大の犠牲者は、もちろん、離婚紛争に巻き込まれる子どもです。

 

 

離婚事件とメンタルヘルス

2022.06.23更新

離婚事件を一定数以上扱っている弁護士なら、恐らく誰でも気づくことがあります。

「離婚事件」と「メンタルヘルス」の密接な関係性です。

離婚事件は、当事者のいずれかにメンタルヘルスの問題がある件の割合が非常に高いのです。

 

離婚紛争は強いストレスがかかります。

離婚に発展するような結婚生活自体、大きなストレス源でしょう。

しかし、当事者のエピソードを聞く限り、多くの場合、ストレスを生んでいるのはむしろメンタルヘルスの方です。

メンタルヘルスが離婚紛争を生んでいるのです。

 

素人診断で「メンタルヘルスに問題がある」と言っているのではありません。

通院歴があり、診断名もついていて、服薬もしている。

医学的にも「メンタルヘルスに問題がある」方の割合が有意に高いのです。

それも、「少し」ではなく「驚くほど」高いです。

 

離婚事件とメンタルヘルスの密接な結びつきを知っておくことは、当事者にとって時に大きな意味があります。

離婚事件では、相手からの理不尽な要求に振り回されがちです。

そんな時、相手の要求の裏に「何らかの目的があるのではないか」と考えると、時に間違えます。

 

金目当てなんじゃないか。

家が欲しいんじゃないか。

実家もグルなんじゃないか。

不貞相手がいるんじゃないか。

 

相手が合理的に行動しているなら、その可能性はあるでしょう。

しかし、メンタルヘルスに問題がある方の場合、単にその問題の表れ、一症状に過ぎない可能性があります。

自身の内的な問題を別の形で訴えているだけで、合理的な目的などはない。

落としどころも考えていない。

 

そういうケースの場合、私はまず相談者の方に

「相手の行動を合理的に解釈するのを止めましょう。」

と伝えることにしています。

そういうケースの全体に占める割合は、恐らく想像よりずっと大きいです。

 

 

婚姻費用と「潜在的稼働能力」

2022.06.18更新

離婚に先立ち、当事者同士が別居した場合、婚姻費用分担請求権が発生します。

おおまかにいえば、収入の多い方から少ない方へ、収入と家族構成に応じた費用支払義務が発生します。

婚姻費用の金額は、直近の収入を基礎として計算します。

 

では、別居時点では収入があったが、その後、無収入となった場合はどうでしょうか。

直近まで収入があったのですから、潜在的には今でも稼得能力はあるのではないか?

婚姻費用を免れるためにわざと無収入となったのでは?

そういう疑問を持つ人もいるでしょう。

 

裁判所でも、「潜在的稼働能力」という言葉が持ち出されることが多くあります。

その時点では稼いでいなくても、潜在的には稼ぐ能力はある。

だから、一定程度の収入があるものとして扱う。

婚姻費用分担義務も課す。

そういう論理です。

 

理屈は分かります。

しかし、この論理はやはり支払う側、義務者にとって酷だと思います。

 

そもそも、婚姻費用自体、義務者にとって時に非常に酷です。

よそに恋人を作って出ていった。

家族を顧みず遊び歩いている。

そういう場合は、婚姻費用請求が認められるべきです。

しかし、大多数の場合、婚姻関係が破綻したことにつき、どちらかが一方的に悪いとは言えません。

出ていった側に対し、残された側が生活費を支払い続けるのは精神的に辛いことです。

ましてや、世の大多数の労働者は家族のために働いているのです。

その家族がいなくなったのに、なおも送金のために働き続ける。

人間の自然な生理に反すると言わざるを得ません。

 

昨年、「潜在的稼働能力」があるとして家裁では婚姻費用支払義務が認められたが、高裁で取り消された裁判例がありました。

公刊物によれば、義務者の方は別居時は働いていましたが、自殺の恐れがあるとして警察に保護されて実家に戻り、以後は就労していなかったようです。

公開されている情報だけでは、何があったかはもちろん分かりません。

しかし、家族が出ていき、自殺の恐れがあるとして実家に戻ることになり、以後働けていない方に対し、潜在的稼働能力があるとして婚姻費用支払義務を課すのは非現実的に思えます。

 

重要なのは、そもそも婚姻費用というもの自体が酷である、ということです。

この件はその過酷さが、「潜在的稼働能力」という切り口から分かりやすく露出したに過ぎないように思います。

婚姻費用支払義務を免れる目的で、収入を隠している。

算定の基準となるタイミングだけ、形式的に無収入となった。

上記のような悪質な件を除き、安易に潜在的稼働能力を認めるのには反対です。

 

 

 

男性側に立った離婚問題の解決を

一時の迷いや尻込みで後悔しないためにも、なるべく早い段階でご相談ください。