配偶者が出て行き、ほどなく弁護士から受任通知書が届いたとします。
配偶者の代理人に就任したこと。
以後は自分が窓口になること。
配偶者はこれこれこういう理由で別居を決めたこと。
婚姻費用の支払いを請求すること。
おおよそ上記のような内容が書いてあります。
一通り最後まで読んでから、あることに気付きます。
「”離婚”の文字がどこにも入ってない」
別居して弁護士までつけるのだから、離婚前提の話だと普通は思います。
ところが、どこにも「離婚」という文字がない。
時々こういう受任通知書を見かけます。
理由はシンプルです。
弁護士が、「婚姻費用分担請求」しか受任していないのです。
家庭裁判所では、「離婚調停」と「婚姻費用分担調停」は別の手続きです。
そのうち、後者から受任していない。
だから、受任通知書に離婚の文字が入っていないのです。
別の法的請求、別に手続きなのだから、婚姻費用分担請求だけを受任することは特に問題ない。
そういう考え方もあるだろうと思います。
しかし、そもそも夫婦には同居義務があります。
自ら同居義務を放棄して別居するのですから、夫婦関係を継続する意思は通常ないはずです。
夫婦関係を継続する意思がないということは、離婚意思があるということです。
夫婦関係を継続する意思はないが、離婚意思もないという状態は通常予定されていません。
なのに、離婚については受任せず、婚姻費用分担請求だけを受任する。
婚姻費用について調停・審判で決まったら、そこで代理業務は終わり。
これが筋の通った考え方だとは思えません。
問題が顕在化するのは、婚姻費用分担請求を受けた側が、離婚を請求する場合です。
婚姻費用を請求してきた代理人が、「自分は離婚は受任していない」と言う。
窓口もないため、協議がなかなか進まない。
こういう事態に陥ってしまうことがあります。
根本には、別居に至る経緯を考慮することなく、一律に婚姻費用分担義務を課し、さらに強力な執行力まで付与する制度の問題です。
そのような制度のおかげで、婚姻費用の確保は決して難しくありません。
時間もそれほどかかりません。
その一方で、離婚は時間と手間がかかる割に、金銭的な見返りが必ずある訳でもでありません。
そこに、婚姻費用分担請求だけを受任するインセンティブが生まれます。
でも、それでいいのでしょうか。
少し違う話をします。
今は下火になりましたが、過払い金請求という類型があります。
詳細は省きますが、過払い金請求は手間も時間もかからず回収可能性も高い。
弁護士にとって非常に儲かる分野でした。
しかし、過払い金はそもそも借金問題の一部です。
高利の消費者金融から借りたため、払い過ぎた金を取り戻すのが「過払い金」です。
過払い金がある依頼者は、同時に借金問題も抱えていることが一般的です。
ところが、借金問題の解決、債務整理には手間も時間もかかります。
その割に、過払い金ほどの実入りもない。
そこで、債務整理のうち過払い金請求だけ受任する弁護士が出るようになりました。
こういった行為は業界内で「ツマミ食い」と呼ばれ、問題視されました。
離婚問題のうち、婚姻費用分担請求だけ受任する行為は、「ツマミ食い」によく似ています。